キライ、じゃないよ。
渡された八田くんのスマホを見て、思わずスマホを逆の手で隠した。

消す事に躍起になっていた記憶が鮮明に脳内に貼り付いてしまう。


「綺麗に撮れてるでしょ」

「原川!」


悪びれもせず、ふふんと笑う原川さんを隣の八田くんが諌める。

でも、私は声を出すこともできなかった。

原川さんは、さっき、樫に写真を見せると言った。

こんな写真を見せられたら……。樫はどう思うだろう。

私の事を軽蔑して、二度と会ってくれないに違いない。

やっと、高校の頃の誤解が解けて素直な想いを告げられるかもしれないと思っていたのに……それなのに。


「皐月さん……」

「今まで相手の気持ちの上に胡座をかいていた罰でしょ。樫くんを好きな子はたくさんいた。友達だとか言って、自分の気持ち隠して、大した努力もせずにさ。私はもう樫の事なんてどうでもいいけど、田淵ちゃんは本気だよ。だから、協力してあげただけ。今泣くくらいなら、余裕見せてないでもっと足掻けばいいのよ」

「だからって、薬使って眠らせて、こんな小細工……卑怯だろ」

「なによ、八田くんは綺麗事ばっかり。皐月さんのこと好きなくせに。本当に手に入れたいと思ったら、汚かろうがなんだろうが、あの時自分のものにすればよかったのよ」

「原……おまえなあっ⁉︎」


2人のやり取りを言葉なく聞いていた私は、気付けば立ち上がり、身を乗り出して目の前で頬杖をつく原川さんの頬を叩いていた。


「……ったぁ!なにするのよ?」

「……いい加減にして。人の気持ちをなんだと思ってるの?私だけじゃなく、樫や八田くんのことまで巻き込んで傷つけて……」


叩かれた頬を押さえ、声を荒げる原川さんを見下ろしながら、私は怒りのままに言葉にしてぶつけた。
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