キライ、じゃないよ。
「原川さんも、俺も、多分田淵さんも、誰も2人の邪魔はできないんだって分かってる。原川さんはなおも田淵さんを焚きつけて、あの写真を切り札みたく使わせようとしてるけど、樫くんってそういう卑怯な手を許さないし、そんなんで揺らぐような奴じゃないと思う。こと皐月さんの事に関しては」

「どうして?なんでそんなことが分かるの?」

車を運転しながら、視線はずっと前方を見ている八田くんの表情はよく見えない。

私を元気づけようとして、言葉を考えて言ってるだけなのかとも思ったけど。


「この前の焼肉の日にさ、幸島さんから連絡があった。樫くんに2人が会うことを話すって報告してきたんだ。その時に聞かされた。学生時代から樫くんは皐月さんのことを誰よりも特別に思ってた。ガキだからそれが恋だとは気づかなかったみたいだけどって。自分達からみたら、付き合っていた自分達よりも2人の方が恋人同士みたいだったって。皐月さんを独占して他の男子が近づけないようにしてたみたいだし。皐月さんは樫くんのこと好きだったから、他を見ることもなかったって」


八田くんの口から語られる樫と私の話に、私は言葉を挟む余裕もなくただ唖然として聞いていた。

周りから、香達からそんな風に見られていたなんて。

だから、香は私が樫の言葉を鵜呑みにすることをずっと否定し続けていたんだ。

頑なだった私は、樫の口から出た言葉だけを信じて、親友の言葉を聞き入れなかった。

だって、ずっと好きだった人に拒絶されて、あれが本心じゃないなんて分からなかったから。



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