キライ、じゃないよ。

kashi.6




狡くない?

そう言った上で、俺の強引な懺悔とも取れる言葉を全て許すと言った護。

護の言う通り、俺は本当に狡いんだろう。

今回まんまと原川と田淵の策略にハマった自分を正当化させ、護にある負い目を利用した。

田淵の事は本当に護が心配する事はない。俺に彼女への気持ちは微塵もないんだから。

だけど、護はどうなんだろう?

田淵にあんな写真を見せられて、それが原川の仕組んだ事だと分かったのは事実だけど、それで全部納得できたわけじゃない。

惚れた女が他の男に抱かれている姿を見て、冷静でいられる男なんているわけない。

況してや相手はあの八田で。

護が揺れたとしても仕方ないと思う。

正々堂々と、護に告白したアイツだからこそ、不安だった。

やっと同じスタートラインに立てたと思ったら、全速力の俺の横をアイツは余裕でその先に行くみたいな。

そんな敗北感を味わっていた。


「か、樫?」


怯える小動物のような目で俺を見上げる護を、どんな風に問い詰めてやろうか?

なんて、自分の迂闊さを置いて責めるのはおかしいと分かっている。

確かめたいのは、ひとつだけ。


「護、正直に答えて。……八田に揺れた?」

「……」


言葉なく、見開かれた目。

そしてゆっくりとその目に怒りと悲しみの色が浮かんでいく。





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