キライ、じゃないよ。
「本当に、分かってくれた?」

「分かったってば。もう気にしてもないし、不安にもならない」

「他の女に抱きつかれたのも許してくれる?」

「……許す、」

「他の女の家に上がって一晩過ごしたことも、許してくれる?」


あのストーカー騒ぎの時のことだよね。

と言うか、樫ってばこれに乗じて一気にまとめて許してもらおうとしてるんじゃ……?


「……許す、よ。人助けでしょ」

「じゃあ、最後に一つ」

「もう!まだあるの?」

「だって、しこり残したままじゃあ護の隣にいられないだろ」

「……樫って、なんて言うか……狡くない?」

「これで本当に最後だよ」

「……なに?」


神妙に落ちた声音に首をかしげると、樫は徐に距離を詰めてきた。

いきなりの至近距離に戸惑い、窓際へと逃げてしまった。

後頭部に窓から伝わる冷気が、火照った頭を冷やしてくれる。


「逃げられると傷つくな……まぁ、いいや。最後の一つはアレ。不意打ちのキス、あれも許してくれる?」

「えっ?」

「怒ってただろ?いきなりキスしたこと」

「それは、だって……」

まだ、付き合ってるわけでもないのに、あんな風にキスされたら、どう考えたらいいのかわかんなくて……。

「嫌だった?」

「嫌?……ってわけじゃないよ。ただ、びっくりしただけで」

「じゃあ、許してくれるんだよな?」

「許す……って言葉であってるの、それ」

「いいんだよ。さ、これで堂々と護と向き合える」


樫は深呼吸をしながら、晴れやかな顔で私に向き直った。

……と言うことは、あの日の続きを?

ほのかな期待に胸がキュンとなった。

今度こそ誰の邪魔も入らず、樫と……。


「さて、護。今度はお前の番な?」

「え?」


甘い空気が漂う一択の筈が、なんだろう、目の前の樫からなんだか黒いオーラが見える。

え、?

これから甘い告白タイムじゃないの?

戸惑う私を窓際に追い詰めた樫の両手が、私の両脇の窓ガラスをドンと叩いた。

え?なにこれ。

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