キライ、じゃないよ。

「……分かったけど。その傷の事はちゃんと説明しておいてよ?」

「たいした傷じゃねぇのになー」

「たいした傷だよ?縫ったんだからね、頭から血が出て……私心臓が止まるかと思った」


友奈が山近くんの腕を掴んで、怒りと心配を含んだ声を上げた。

その剣幕にも驚いたけど、それを涙を浮かべながら訴えている友奈に、正直違和感しかない。

友奈、まさか、違うよね?

私の視線に気付く様子もなく、2人は会計に名前を呼ばれて歩いて行く。

香が電話で話していた、下半身のゆるいチャラ男って言葉が今になって引っかかった。

気になるけど、仕事中の今追いかけて問い詰めるわけにもいかない。


「皐月さん」


考え事をしている時に声をかけられて肩がびくっと震えた。


「あ、原川さん」

「今のって、山近くんと友奈だよね」

「え?あ、うん」


前に会った時となんら変わりのない様子で声をかけてきた彼女だけど、私と樫の間を引っ掻き回してくれたこと、全然気にしてないのかな?

ある意味すごい人だ。


「今日も、お父さんのところに?」

「そうだよ、顔見に来たのよ。来ないとうるさいからね」

「そう、じゃあ、私仕事中だから」

「そ。あ、そういえば樫くんとはうまくいったのよね?田淵ちゃんは失恋のショックで寝込んじゃったわよ」

「……そう」


そんなこと聞かされたって、私には何も言えないし何もできない。

元はと言えば、原川さんが彼女を焚きつけたんだよね。


「樫くんは昔から頑固一徹って感じだけど、山近くんはどうなのかしらね?」

「は?」





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