キライ、じゃないよ。


「悪かった!ギブギブ!」


枕の連打攻撃に、樫が「まいった」と声を上げる。


「反省してんの、本当に?」

「悪い。ちょっと、いやかなり浮かれてて。デリカシーに欠ける発言でした。すんません」

「浮かれ……?」

「浮かれるだろ。そりゃあ……うん」


言いながら、ヘラッと笑う樫を見ていたら、香との会話を思い出した。

未だ経験のなかった私を樫が面倒だと思わなあか不安だった時。『樫なら単純に喜ぶんじゃないの?』と香はいった。

これは、そう言う事なんだろうか。

それなら、私だって……少しは嬉しい。

だけど、やっぱり恥ずかしい!

悶々と考え込む私の、寝癖だらけのはずの髪を樫の大きな手が撫ぜる。


「護、今日仕事は?」

「休み、です」

「なんで敬語だよ、ま、いいや。じゃあ、どっか行こうぜ」

「あ、うん。行きたい」


思えば2人でどこかへ出かけるなんて、学生の時ぶりだ。

ベッドの脇に立ち上がって、背伸びをする樫を見上げた。


「その前に飯食いに行こうぜ。腹減った……」

「私も!お腹ペコペコ。朝からこれだけ空腹感じたことないかも……」


いつもなら出勤前にコーヒー一杯で満足できるのに。

お腹を撫でて首を傾げた。


「運動した後は、腹が減るもんなの」

「は?」


ニヤニヤした顔で私を見下ろす樫の言葉の意味に気づいて、カッと顔が赤くなる。


「も、もう!バカ樫!」


手元に抱きしめていた枕を再び樫に向かって投げつけた。



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