キライ、じゃないよ。
「こんにちは」


背後から声をかけられて、振り向きながら挨拶を返す。

目の前にいたのは、車椅子に乗った年配の男性と原川さんだった。


「今日は検査の日でしたっけ?」

「そうなの。心電図とレントゲンと……色々あって忙しいのよ」


車椅子の男性は原川さんの父親だった。半月前大腿骨の骨折で入院されて、手術後のリハビリをされていたはずだ。


「こんにちは。リハビリ、順調ですか?」


腰を落とし、原川さんの父親に声をかけた。


「あぁ、ここのPTは若いが厳しくて弱音は吐けんよ」


笑いながら、それでも足を動かす様子に問題なさそうだ。


「娘さんがこまめにお見舞いに来てくださるからいいですね」

「珍しいこともあるもんだよ。先週から急に仕事帰りに寄ってくれたり、休みの日も覗いてくれるようになってね」


嬉しそうに話す原川さんの父親に、「珍しいだなんて失礼ね」と少し拗ねた様子で返す原川さん。仲の良い親子に見えて微笑ましい。


「そう言えば、樫くんもここの整形に入院したことがあるんですってね」

「え?……あ、そうみたいね」


急に樫の名前が出てきたから驚いてしまった。


「今父を担当してくださってる先生が、偶然樫くんの手術を執刀した先生だって知って、樫くんに話したら面白い先生なんだって色々教えてもらったの」


楽しげに話す原川さんの言葉を聞く私は、彼女とは対照的に気持ちがどんどん重くなっていく。


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