キライ、じゃないよ。
「八田、今警備会社で働いてるんだって?」

「うん。いろんな場所で仕事するんだけどさ、この前ドラマの撮影現場の警備した時は、初めて生の女優見て興奮したよ」


「え?誰、誰?」


山近と幸島が八田に話し掛け、八田がそれに答える様子を、俺は頼んだビールをちびりちびりと飲みながら聞いていた。

目の前の護は答える八田を見て、時々楽しそうに笑ったり、驚いたりしている。

……遠いな。

あの時と同じだ。

卒業間近のあの日、自分自身に嘘をつき、護を傷つけた。

忘れることのできない苦い思い出が、頭の中でぐるぐる回っている。

幼い自分が招いた最悪の結果。

後悔したって遅い。

しかもなんのフォローもせずに、別れた。

今こんな情けない思いをするのなら、どうしてあの時もっと真剣に考えなかったのか、カッコつけず、高を括らず足掻かなかったのか……。

あの時、一瞬見せた護の表情を気のせいだと、見ないふりをしたのか。



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