キライ、じゃないよ。
「送れなくてごめんなっ。気をつけて、あ、タクシー捕まえてな」


そう言うと私の手に5千円を握らせる。


「こんなの、いいよ」


私だって働いてるんだから、タクシー代位大丈夫なのに。


「いいから。絶対タクシー使って。護に何かあったら俺一生後悔するから」


そんなふうに心配されたら大人しく言うことを聞くしかない。

絶対大丈夫だと思うんだけど、樫が私のことで後悔するようなことがあったらダメだから、タクシー使わせてもらおう。


「ありがとう」

「いいんだ。また、連絡するから」


そう言った樫に頷いて、ハッとする。

連絡先、大丈夫なのかな?原川さんの話もあるし……。


「か、樫……連絡先は」

「?同窓会の時、交換したろ?」

「え、そうだけど……」

「ちゃんとあるよ。護の連絡先、今は履歴の1番上にあるから」


履歴の1番上?一度もかかってきてないのにどうして?


「何度もかけようとしたから。……悪い、結構恥ずかしいから、察して?」


顔を手で隠した樫の耳が、冷気のせいなのか、それとも照れたせいなのか赤くなっているのが見える。

これ以上話すのも抵抗があるのかもしれない。私は、聞いていたいけど。

樫も急いでるんだし、これ以上無理なことも分かる。


「あ、うん。ごめん、急いでたよね。気をつけてね」

「あー、そっちで気を遣わせたか……まぁ、いいや。絶対連絡する。じゃあな」


本当に急いでいるみたいだ。慌てた様子で今通ってきた道の方へ走っていく樫を見送り、自分も駅に向かって歩き出した。

駅通りだから、タクシーを捕まえるのに苦労はしないだろう。


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