キライ、じゃないよ。
「……皐月さん、大丈夫?」


声をかけられて我に返った。


「え、べ、別に大丈夫だよ」


こんなことを聞いて動揺するなんて情けない。
樫とは別に何の関係もないんだもの。樫が誰と会っていようが、誰と付き合っていようが私には関係ないのにね。

へへっ、と軽く笑えば、八田くんは申し訳なさそうな顔をして何故か「ごめん」と謝った。

八田くんが謝る必要はどこにもないのに。


「樫も話してくれればいいのにね、この前の飲み会の時にでも。田淵さんなら知らない仲じゃないんだしね」

「そうだね」

「八田くんは2人と偶然会ったの?」


2人のことなんか知りたくない。いや、知りたいのかな?私。

いつから2人が付き合っているのか、それならどうして樫は私に……?

あれ、やっぱり夢だったのかなぁ……。


「俺、昨日も夜勤でさ、今朝仕事先から帰る途中に、偶然田淵の家だと思うそこから樫くんと田淵が出てくるのを見たんだ。」

「朝?田淵さんの家から?」


ぼんやりと八田くんの言葉を繰り返していた。

他になにも言えなかった。言うべき言葉が見つからなかった。

朝帰りって事?もしかして、一緒に住んでる?


「えと、ごめん。余計な事……話して」

「やだなぁ、私が聞いたのに。八田くん気を使い過ぎっていうか、別に私は樫のことなんとも……」


なんとも思っていないと言い切れない自分の弱さが嫌だ。

こんな風にハッキリと現実を突きつけられているのに。
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