キライ、じゃないよ。
微妙な空気が流れる中で、原川さんだけが1人テンション高く盛り上がっている。

田淵さんもこちらを気にはしているものの、不機嫌なままの樫に話しかけたり、料理を取り分けたりと細やかな気配りを見せている。

樫と言えば、田淵さんに取り分けてもらった料理を食べたり、肉を豪快に口に運んでいるものの、視線はずっとこちらを睨みつけている。

多分、八田くんはこの視線に気づいていない。

気付いているのは、向かい側にいる私達だけだろう。

だけどどうして樫がこんなに不機嫌なのか。

睨まれる理由も分からない。

そもそも3人がどうして一緒に食事に来ているのかも、何も分からない。

聞きたくてもこんな様子の樫に声すらかけられない。

居たたまれなくて、注文した料理がなくなると同時に、八田くんに店を出ようと促した。

本当は樫と話がしたかった。

あの日の事や、連絡をくれると言ったのになんの連絡もよこさない事や、今彼女達と一緒にいる理由も。

だけど、聞けない。

私は八田くんといて、樫は彼女達といるから。


「じゃあ、お先に」


黙って出て行くわけにもいかないから、取り敢えず原川さん達に向けて声を掛けて、上り口に座って靴を履いた。

隣には樫がいて、痛いほどの視線を感じる。

でも、だからってどうすればいいのか分からない。


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