優しいあなたの嘘の法則



そんなことより。

「………」
「………」

何を話したらいいか分からない。重苦しい沈黙が私と想くんを包む。お願い、1秒でも早く駅に着いて。これ以上の沈黙は耐えられない。早くこの沈黙から解放されたい。

「時間、早く過ぎてくれないかな…」
「はあ?」

思わず心の声が漏れた私を、想くんは冷たい目で見つめた。なにもそんなに冷たい目で見なくてもいいじゃないか。あ、今すれ違った女の人、想くんのことすごい見てた。さすがイケメンだと感心していると、想くんに「ねえ、向こうの歩道にやばい人いるぞ」と肩を叩かれた。

「あの人、竹馬に乗って歩道歩いてるよ。ウケる」

「えええ!なにそれ!」と私が爆笑して想くんが指差した方を見ると「嘘に決まってんだろバーカ」と、想くんは私を嘲笑った。

「…想くんって嘘ついてばっかだよね。そういうのよくないと思うよ」
「っ、ごめん。場を和ませたくて、つい」
ついじゃねーよ、と言えば、想くんはくつくつと笑った。

そんな彼にふつふつと怒りがこみ上げる。なんだこの人、本当に腹立つな。そう思いながら角を曲がった。

「ってあれ?駅の道ってまっすぐじゃなかったっけ?」
「そうだよ。でも、まっすぐ行くと、好きだった人が働いてる本屋さんがあるから。遠回りして帰ってるの」
「……それも、好きだった人を諦めるため?」
「え…なんで知ってるの…てあ、そっか」

〝ずっと好きだった人についこの間好きだった人にふられちゃって〟

そうだ。合コンで話したんだっけ。私はうん、と頷いた。

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