キミイロ♪
キミイロ♪
 鳴海 月(なるみ るな)は、自分の名前が嫌いだ。
 月と書いて『ルナ』、だいたい読み間違えられる。ルナと呼びたかったのなら、何故カタカナでの『ルナ』や、せめて、漢字で『琉奈』とかに、して欲しかった。

「いい名前じゃない、かわいいよ♪」

 そう言って彼は笑う、彼は礼門と書いてレモンと読む。男にしては……な、名前だけれど、父親が志門なので、『門』が、通字というやつなのかもしれない。

 上司の、黄金川礼門という人は、王子様然としたぼんぼんで、ルナを除いて部署で一番歳下だけれど、この部署の、(というか、財閥の)総帥なのだ。

 バレンタインデーだから、と、皆定時で帰っていく中、ルナだけが残業していた。意識してそうしたわけではない、キリが悪いのだ。
 昨日はチョコレートの準備で定時帰宅していたので、仕方が無い、とも思っていた。

「あれー? ルナちゃん、まだいたのー?」

 白々しく言いながら、礼門がルナの席の背後に立ち、ディスプレイを覗きながら言った。

「なんだ、本当に仕事か」

 仕事も無いのに残業するもんか。舌打ちをこらえて、ルナは黙々と作業を続けた。

「僕とふたりきりになりたいのかと思ったのにー」

「部長、それ、セクハラです」

 ルナはキーボードの手を止めずに言い返した。

「ぶー、こういう事言われるの、嫌?」

「……嫌、では、ない、です……けど」

 ルナはやんわりと答えて、きっぱりと続けた。

「あと三十分で終わります、……待ってて、もらえますか?」

「うん♪ 待ってるー」

 素直に礼門が答えた。こんなに幼い感じなのに、部長で財閥総帥とか……。と、ルナは思うのだけれど、同じ職場に、姉と、姉の夫がいると、『弟キャラ』が定着してしまうものかな、とも思う。

 ルナは手を止めて、ふぅ、と、ため息をついた。終わった、と、OAチェアごとくるりと振り向くと、背もたれを抱きしめるような姿勢で、礼門がOAチェアでくるくる回っていた。

 ルナは退勤を打刻し、抽斗にいれておいた黄色い包の小箱を礼門に渡した。

「ハッピーバレンタイン」

 ルナがそう言って渡すと、礼門が答えた。

「いいね、君の色だ」

 月は、赤だったり青だったりもするんだけどね、自分だってレモンのくせに、と、思いながら、ルナは礼門の髪をくしゃっとした。
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