明日死ぬ僕と100年後の君

思わず女の子を抱きしめる。

お母さんは大丈夫。そう言ってあげたかった。

でもとても言えない。

大丈夫にだなんて、どうしたって見えなかったのだ。


有馬はズボンもシャツも、両手も血で濡らしながら、呟いていた。

「死ぬな」と繰り返し、何度も何度も。

真っ白だったシャツは、元の色をすっかりと消し赤く染め上げられて。

それでも有馬はシャツを押し当て続けた。


救急車が来てすぐ、隊員に有馬が状況を説明し、わたしも女の子を抱き一緒に車に乗り込んだ。

なぜか「有馬総合病院へ」と有馬が指したことにギョッとする。

「うちで経営している病院なので」と付け加えたことで、ようやく思い出した。

そうだ。有馬のお祖父さんは総合病院の院長だと、前に柳瀬くんが教えてくれたんだった。


有馬は素早く自分の祖父に連絡をし、患者の受け入れを頼み承諾をもらうと、それきり口を閉ざした。

そしていまにいたるまで、ひとことも発していない。


女の子は父親が来て、一緒に手術患者の関係者に用意された待合室にいる。

わたしたちは親族でもなんでもないので入れない。

だからここにいる。


有馬がいるから、わたしもいる。

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