いつか恋とか愛にかわったとしてもー前篇ー
勝子と勇の家は、歩いて15分ほどの距離にある。
同じ駅で降り、同じ方向に10分ほど歩いたところで道が分かれる。
五反田にいたときにはまだ明るかったのに、改札を出るとすっかり日が落ちていて、茜色の空が藍色に包まれようとしていた。
夕餉の買い物客で人が出ている小さな商店街を抜けるとすぐに静かな住宅街に入る。
稽古には間に合わない旨を勝子はじい様に伝えていたので、もう焦る必要はなかった。
勇も今日は稽古の日ではない。
2人はのんびり家までの道のりを並んで歩く。
「日が暮れるのが早くなったね」
「そうだな。なあ――」
空を仰ぎ見る勝子の横顔に勇は声をかけた。
「ん?」
目をおろし勝子は勇を向く。
「お前、好きなやつとか、いたりするの?」
唐突だったが勇にとってはずっと気持ちの中で問い続けてきたことで、“好きなやつ”ではなく“好きなやつとか”と、「とか」を付けたり、“いるの?”ではなく“いたりするの?”と「たり」を付けることで、遠まわしなニュアンスを加えてみた。

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