青春の蒼い花
「何お前、まだ着替えてねーの?」
私が教室に戻ってくると、高津は私にそう言ってきた。
「ねえ、明日香の服は?」
「木崎の服?あー木崎の衣装ならそこに掛かってるけど。そーいや木崎まだ来ねえな。朝読み合わせしたいって言ってたのに。」
私は高津が指をさした方にかかっていた衣装を手に取った。
「明日香来れなくなった
だから私が代わりにベルやるから」
高津に対して返答したつもりが、私の声は教室中に聞こえていたようで、クラスメイトたちは一斉に私の方を見た。
みんな同じように驚いた顔でそして一斉に口を開いた。
「何、どーいうこと!?木崎さん来れないの!?」
「代わりにやるって、無理に決まってんじゃん!!練習なんてしてないのに!それも主役でしょ!?今から覚えたって...」
「全部覚えてる。」
私はみんなの声を押し切ってそう強く答えた。
「いや、木崎さんの練習付き合ってたからって、1回も通し練習もしてないんだから無理でしょ。いくらベルのセリフ覚えてても」
「ううん、台本全部覚えてるから。」
みんな不満気な顔だった。
まだどこからか「でも」という声が聞こえてくる。
でも私はしっかりと力強いはっきりした眼差しで、
高津の目を見た。
高津は私の顔を見て、少し驚いた顔を見せたけど、小さく頷いて、「わかったよ」とそうつぶやいた。
「みんな、白石に賭けてみてくれないか?」
高津の言葉にみんな一瞬黙り込んだ。
でもやっぱり反対の声は止まなかった。
けど、それは意外な人の言葉で静まった。
「白石さんなら、できるよ。
てか、白石さんにしかできない!!」
そう発した人物の方視線をやると、私は驚いた。
「真美.....」
「私、中学の時、白石さんと一緒に演劇やってたの。白石さん、大人しそうに見えるけど、演劇では誰も彼女以上の演劇なんてできなかった!!毎回、劇の流れも暗記して、他の人の役の分も完璧に覚えてて、.....私、白石さんにしかできないと思う。ていうか、お願い蒼衣!!ベルの役やって!!」
私は思わず涙がこぼれた。
高校生になってから1度も言葉を交わしてこなかった、中学時代の部活の仲間。
もう一生、話すこともなければ
過去から追い出そしたいと思っていた人。
真美の言葉があり、クラスのみんなも承知してくれた。
私は明日香が着るはずだった衣装を身につけてみんなの前に立った。
「町人より全然似合ってんじゃん。」
そう言ったのは意外にも麻生さんであった。
「ありがとう、真美」
久々に話す旧友に話しかけるのは少し緊張した。
今までいない存在にしていた人だったから、今回真美の言葉に救われて申し訳ない気持ちになった。
「ううん、それに私こそごめん。
もう一生蒼衣と話しちゃいけないと思ってた。
あんなことして許されるわけないって思ってたから。
私蒼衣の代わりに最後の劇で主役とれたけど、全然うれしくなかった。
それでやっと蒼衣がどんだけ努力してきたのかようやくわかって…。
才能に僻んで意地悪ばっかりしてきてごめんなさい。
だから、蒼衣!今度はしっかり主役を演じて!最後の演劇を楽しんでよ!!」
私の胸にぽっかりと空いていたものが、
なんだか温かいものでいっぱいになった気がした。
私は大きく頷いた。
真美、ありがとう。
これが私にとっての最後の舞台なんだ。