エリート弁護士は契約妻への激愛を貫きたい
京極さんだってリップサービスで言っているに違いない。だって大企業の御曹司が私みたいなのを相手にする訳がないもの。

でもこんな御曹司となかなか話す機会なんてないからこの場限りの楽しみだと割り切って色々話すのはいい経験なのかもしれない。そんな事を考えていた。

それにしても対照的だ。隣から聞こえてくる会話の温度差があまりに激しくて気になり始めた。気を遣って私に色々と話しかけてきてくれる優しい雰囲気の京極さんに対して凛華の後輩たちの怒涛の質問とアピール攻撃にただ淡々とクールに答える東條さん。それはまるで質疑応答業務のようにしか見えない。

「紗凪ちゃん連絡先交換しようよ?」

「え?」

隣の会話を観察していた私に届いたひとつの声に私の意識はそちらへと動いた。

「連絡先聞かないと一緒にダイビング行けないじゃん?」

「あっ、そう、ですね……」

私の瞳に映るのは悪戯な笑みを浮かべて携帯を手にする京極さんだ。京極さんの社交辞令第ニ弾が繰り出されて、私は正直戸惑っていたりする。

さてさてどうしようか? なんて考えても相手のプライドを傷つけずにサラリと断る高等技術を持ちわせていない私は鞄から携帯を取り出した。

「なんか心ここに在らずって感じだね? 紗凪ちゃん」

「え?」

私の耳元で京極さんがそう囁いた。私が隣の会話に耳を傾けていたことに気がついていたらしい。

「聖のことが気になるなら協力してあげようか?」

戸惑う私の前に再び悪戯な笑みが降ってきた。この人の観察力は凄い。普通にしていたつもりでいたんだけどな。なんて感心する前に、まずは京極さんの勘違いを解かなくては。

「いやいや、別にそういうのじゃないので。すみません。私、ちょっとお手洗いに行ってきます!」

そう言って私は逃げるように立ち上がってドアの方へと向かった。
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