バレンタインは狡く、賢く。
(いやいや、返されたら困るんだって…)

内心焦りつつ、

「先生、決まりは決まりですからちゃんと没収しないとダメですよ?それと、私忘れっぽいので来年もきっと持ってくると思います。……その時は先生、また受け取ってくださいね?」

私はにっこり笑ってそう言うと、

「それじゃあ先生、さようなら」

と挨拶をしてその場を去った。
後ろから先生の

「いや、飯田お前、記憶力すげー良いじゃん…」

という呟きは聞こえないフリをする。そう、記憶力には自信がある。何せ私は学年トップの成績だから。
そんな私の今の言葉の意味、先生は気づいてくれるかしら?
今はまだ子どもだって線を引かれてしまいそうだから、告白はしない。
でも、卒業したその時はちゃんと告白するから、その時のために今から少しずつ意識して。

あまりにも静かな先生にちょっと不安になり振り返ると、赤面した先生がチョコレートを抱えたまま固まってしまっている。

(可愛い人)

私はもう一度笑って「さようなら」と挨拶をする。

「あ、ああ。気をつけて帰りなさい。」

動揺を隠せないでいる先生に愛しさが湧く。今どんな顔してるんだろう?気にはなったけど、もう振り返らない。

「ふふ。来年のバレンタインが楽しみだわ」

誰もいない廊下に私の声が響いていた。

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