守りたい人【完】(番外編完)
「で、でも、ほら、噂話だし!」
「――」
「近所の人達って、結構噂話盛るじゃない? だから、きっと暴力事件なんて作られた噂だよ!」
アタフタと必死な様子で私にそう言って、顔を覗き込んでくるたまちゃん。
その言葉に、無意識に落としていた視線をパッと持ち上げる。
「あ、うん……そうだよね!」
「きっと、そうだよ! あの朝比奈さんが暴力事件なんて、ありえないでしょ!」
「そうだよね」
グッと胸の前でガッツポーズをした、たまちゃんにニッコリと微笑みかける。
笑えていたかは分からないけど、これ以上変な気は使わせたくなかったから。
そんな私を見て、ホッとしたように息を吐いた、たまちゃんは話題をグルンと変えて、夏に海に遊びに行こうとワクワクした様子で話し出した。
その声に耳を傾けながらも、私の頭の中はその『噂』でいっぱいだった。
もしかすると、たまちゃんの言っていたように大袈裟に作り上げられた噂なのかもしれない。
だけど、その噂にも根源はあるはずで、少なからず朝比奈さんに何か秘密があるのは確かだ。
事実、未だに私は朝比奈さんの素性を知らないし、朝比奈さんも話そうとしない。