守りたい人【完】(番外編完)

伏し目がちに地面を見つめて、何も言わない朝比奈さん。

まるで傷ついた一匹狼のようなその姿を見て、胸が痛む。


「……あの、朝比奈さん」


その姿を見つめながら、ギュッと拳を握る。

答えてくれるとは思わない。

それでも、少しでも朝比奈さんの役に立ちたい。

私にできる事があるなら、なんでもしてあげたい。

でも、その為には本当の事を知らなければ――。


「噂、聞きました」

「――」

「前の会社で暴力事件を起こして……辞めさせられたって」

「――」

「それは、事実なんですか?」


ゆっくりと言葉を選びながら、そう問いかける。

ギュッとお腹の前で手を握って、何も言わない朝比奈さんを見つめる。

私は味方だよ、って、そう伝わるように。


それでも、朝比奈さんは目を伏せたまま少しも表情を変えずに黙り込んでいる。

否定も、肯定もせずに、ただただ黙り込んでいる。
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