クールな御曹司の契約妻になりました
「香穂、この間の話覚えているか?」

千裕さんが私の腰に手を回したまま、耳元で囁くように尋ねたのは、会場に向かう廊下でのことだった。

「えっ?」

「5年後、生きていくために無駄にならないように毎日を過ごすって話だ。」

聞き返した私にさらに声を潜める様にして、千裕さんがさらに話を続ける。


「社交界は人脈を広げるいい機会だ。5年間、何も分からないという顔をしてニコニコ笑って俺の隣にいてもいい。受け身で成松の指示を仰いで、パーティーに参加することも一つの方法だ。もちろん、自分でゲストの情報を調べて、会話を楽しめるようになれば人脈を広げることだって出来る。」

「与えられたのを待つのではなく、自ら動く?」


私の答えに、千裕さんは大きく頷く。


「どんな小さな出来事も捉え方次第、取り組む姿勢で結果は大きく変わる。5年後、どう過ごすか決めるのは香穂だ。だけど、人脈を広げておくことに損はないと思うぞ」


千裕さん、というより二階堂社長としての有難いお言葉は私の心を震わせる。

しかもこんな至近距離で、こんな耳元で艶やかな声で言われてしまうと意識せずにはいられなかった。

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