甘い脅迫生活
「専務なんですよ。」
「専務が、え、なに?」
優雨の笑顔を思い出していたせいで、さえちゃんの話を聞いていなかったらしい。聞き返せば、さえちゃんが黒い笑みを浮かべる。
「聞いてませんでした?」
「あ、いや、色々、思い出して。」
「へぇ。先輩って結構惚気るタイプなんですねっ。」
「う。」
そんな小っ恥ずかしいことを無邪気に言われて否定をしたくても、ほんとに優雨のことを考えていたんだから何も言えない私。
「どうぞ、続けてくださいー。」
「かしこましたー。」
ノリの良いさえちゃんが電車を誘導する駅員さんのように手をビシリと動かした。
「社長って、この間まで専務と付き合ってるって噂があったんですよね。」
「へぇ。」
うちの専務と言えば……だめだ。名前が分からない。
こんな末端の部署の事務員である私が社長である優雨の顔すら知らなかったのに専務の顔なんて分かるわけがないし。
「もう。先輩興味なさすぎですよ!小竹(こだけ)専務って言えば超仕事できて超美人で超ナイスバディーって有名じゃないですか!」
「ちょっと超が多すぎない?」
何事も程の良さが必要なわけ。ほら、私なんてどうよ?程の良さの塊のような人間でしょ?
……だめだ。自分で言って落ち込んだ。