甘い脅迫生活
そのためだったら結婚くらい、とは思うけど……。
私には少々、スキルが足りない。
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「お疲れ様です。」
「お疲れー。」
シュシュでの仕事が終わった後、全身を包む倦怠感と戦いながら裏口を出た。小さな街角のキャバクラ。ここを副業先に選んだのは、会社関係の人が入らなそうだと判断したからだ。
こんな、地元の常連しかこないような小さな店には、転勤もあるうちの職場の人間は来辛いはず。その予感は的中して、まだニヤミスすら経験していない。
まぁ、社長にはばっちり写真撮られてたけど。
キャバクラの夜は長い。だけど私は、18時から22時の4時間だけという契約にさせてもらっている。正直お金的には閉店まで働きたいけれど、それじゃフルタイムで働いている私の身体がもたない。ほんとに、身体が2個ほしいくらいだ。
10代の時は稼ぎは今の4分の1くらいだったけど、問題なく学校にも通えてた。24歳の今、少しずつ感じている衰えは、きっとこれから激しく加速していくことだろう。
婚期も逃したくないし……
できれば30中盤までには、借金を完済したい。
って、もう結婚は、してるか。
ネオン街に囲まれた空を見上げると、不思議な感じがした。いつも見ているものと同じ景色なのに、今日はなんとなく、違うような。
それは決して、思わず空を見上げてしまうような人が立っているのを発見したからでは、断じてない、と、思いたい。
「奥様、お迎えにあがりました。」
いつもの高級車の前で、山田さんが深く頭を下げた。