甘い脅迫生活





それでも、時間は過ぎていく。



「あーお疲れ様でーす。」



仕事を終えたさえちゃんが事務所に入ってきたと同時に、定時で帰る同僚たちもなだれ込んできて、一気に室内が騒がしくなる。


「先輩、大丈夫ですか?」

「……大丈夫。」



こんな時なのに。身体は勝手に動いて仕事を完了させている。しかもシュシュの出勤時間に間に合うのか、なんて、どこか頭の片隅で計算している自分がいた。


親子で働いて、必死にお金を稼いできた。だけど借金は全然減らない。それなのに利子分増え続ける。その繰り返し。


だから今、私はこの職場をクビになるわけにはいかない。


他に職なんていくらでもある。他人はそう言うだろう。だけどそれは違う。



もし、この会社をクビになった理由が知られたら?もちろん、会社の規則を違反して辞めた人間がよく見られるわけもない。


それが借金を返すため、なんて。そんなの、明らかなマイナス要素だ。



定職につかず、アルバイトやパートでお金を稼ぐ手もある。だけどそれじゃ、保証なんてものはまるでない。



私が結婚してまで副業を隠したい理由はそこにあった。



まずは借金を返す。自分の人生を考えるのは、親が安心して笑えるようになってからだ。




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