君が好きなんて一生言わない。
麗がいることに気づいた母は「大丈夫よ、麗ちゃん」と麗の頭を撫でて優しい顔をする。


「お母さん、ちょっと疲れちゃっただけなのよ。だから休んだらすぐ良くなるわ」


その声を聞いた麗のお母さんも「そうよ、心配しないで」と力なく言う。

麗はその通りだと言わんばかりに大きく頷くと、俺を会談室に連れて行った。

広間みたいになっている開放的な会談室には大きな窓と机、本や筆記用具などが置かれていた。


「ねえ、しーくん、おかあさんね、すぐよくなるんだって」


会談室に来た麗は明るい声で言った。


「しーママもね、おいしゃさんもね、すぐよくなるっていってたんだよ!」


お母さんが良くなったらいつも俺と遊んでたあの公園に行くんだって、麗は楽しそうにはしゃいでいた。


「だからね、麗はおかあさんが元気になるように折り紙をするんだ!」


「しーくんもしよう!」といつもの笑顔で麗は会談室に置かれた折り紙を取り出すと一生懸命に折り始めた。

どうやらそれで鶴をつくるらしい。

早速できた折り鶴をお母さんに見せようと麗は病院の廊下を走って行った。

「麗ちゃん、廊下は走っちゃだめよ」なんて看護師さんの注意も聞かないで、「おかあさん!」と大好きなお母さんを呼びながら走っていった。

俺はそんな麗を追いかけていた。


「まあ、すてきな鶴ね」

麗の折り鶴を見た麗のお母さんは嬉しそうに目を細める。

いつもと同じ笑顔だけど、少し頬が痩けているように見えた。

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