君が好きなんて一生言わない。
震える心を抑えつけて他人のふりを装った。

今ここで俺が麗を知っていることを言ってしまえば麗を傷つける。


この場を早く抜け出したくて、だけどまだ麗と一緒にいたくて。


自分のことなのに、自分の気持ちがまるで分からない。


そのまま記憶を失った麗と過ごしていて気がついたことがあった。


麗は何一つ変わっていない。

一度言い出したら聞かない頑固なところ。

すぐドジを踏むこと。

正直、手がかかって仕方がない。


でも守りたいと思ったあの笑顔も変わらない。


それが嬉しくて。


だから俺は絶対に守ろうと思った。


自分と交わしたひとつの約束。



麗が幸せになれるように麗を守ること。



失ってばかりの麗が幸せに暮らせるように、ただそれだけのために自分の人生の全てを捧げると。



そのために麗が遠い存在になっても、麗が幸せならそれでいいと。



心からそう思っていたのに、いつからだろう。



「ユズ先輩!」



大好きなはずの麗の笑顔が、見ているだけで苦しいと感じるようになったのは。


その笑顔が向けられているのが自分ではないことが苦しいと感じるようになったのは。



「椎先輩」



…いつから俺は、こんなにも強欲になったんだろうか。



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