跪いて愛を誓え
01* おばあちゃんの夢夜城
「――――はぁ? 何の話だよ、和泉(いずみ)」
会社の喫煙ルームで、煙と一緒にそんな言葉を吹きかけられた。
今は業務中。サボって煙草を吸いに行った彼を追って、私もそこへ入った。周りには誰もいない、二人きり。彼を問い詰めるのには丁度いいと思ったんだ。
問い詰めるなんて、付き合ってからした事は無い。いつだって主導権は彼が握っているから。彼の不遜な態度とは対照的に、緊張で心臓が破れそうだ。
「だ、だから……この前、駅前で…………」
ふー、と彼はもう一度、面倒くさそうに煙を吐いた。私はその煙を避けるように俯き、ぎゅっと両手を握って震える声で言葉を続けた。
「駅前で、女の人と手を繋いで歩いてたのを見たんだけど……」
「ああ……それか……」
彼はまた、面倒くさそうにそう答えた。
彼とは付き合ってもう、一年になる。かなり整った顔立ちで、入社当時は同期の中でもイケメンだとモテていた。私も憧れていた一人。
だから付き合う事になった時は、まるで夢なのかと思ったぐらい幸せだった。だけど……
ビックリするほど女癖が悪かった。
こんな浮気だって、今日までに大小合わせて五回目。その度に私は、泣きもせず怒りもせず、冷静にと我慢していた。
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