バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 それに、いくら自分と因縁のある相手とはいえ、『お金がない』という理由で若夫婦が挙式できずに悲しんでいる姿を想像すると、仮にもプロのブライダルコーディネーターとしての血が騒ぐ。

 こういうときこそ力を発揮しなければ、私がこの仕事を選んだ意味がない。

「私もなんとかアイディアを出すから貴明も諦めないで。今日も仕事を終えたらこっちに来るんでしょ? ちゃんと相談しよう」

『わかった。じゃあ、そのときに』

 電話を切った私は、気持ちも新たに歩き出した。

 予算削減に関しては同僚の泉ちゃんにも相談していて、ちょうどこれから意見を聞きに行くところだった。

 逸る気持ちを抱えて足早に廊下を進み、フラワー部門ルームに到着した私は、隅っこのデスクで熱心にアレンジの練習をしている泉ちゃんのもとへ向かって話しかけた。

「泉ちゃん、お疲れ様。早速なんだけど私が相談してた件、費用はどれくらい抑えられそう?」

「無理です」

 花から顔を上げようともせずに答える泉ちゃんのすげない態度に、勇んでいた気分が一気に消沈してしまった。

「泉ちゃん~。そんなご無体な」

 肩を落として情けない声を出す私に、顔を上げた泉ちゃんも、似たような声を出して眉を下げる。

「無理ですよぉ。いくらなんでもこの金額で装花するのは不可能です。それは倉本さんだって知っているでしょう?」
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