バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「素晴らしいお式ですね。私、感動しました」

 もちろん用意された花の種類から食器類の格に至るまで、お式そのものすべてが、とても豪華で素晴らしい。

 でもコーディネーターとして、早朝のセッティングから完成までの全ての過程を見ていた私は、目の回るような手順を必要最低限の人数でこなす優秀なスタッフの手腕にも、心から感心していた。

「どのお客様もみんな平等に大切だけれど、副社長が担当する仕事は各界の有力者の息子さんやお嬢さんばかりだから、特に気を遣うのよ」

 言葉通りの真剣な表情で、花嫁様から目を離さないメイクさんの説明に私も納得する。

 副社長をコーディネーターとして指名してくるお客様は、たしかに著名な企業の代表を務めるような方ばかりだ。

 今回の花嫁花婿様も、前に副社長が挙式を手掛けた著名人からの紹介らしい。万が一なにか手違いでもあったら、紹介してくれたお客様の顔にも泥を塗ることになってしまう。

 ミスやトラブルのないように細心の注意を払わなければと気を張る私の目に、濃いチャコールグレーのスリーピーススーツに、ダークシルバーの折り柄タイをつけた副社長が近づいてくるのが見えた。

「おい、わかってるな? そろそろお色直しの時間だぞ」

「はい。ドレスチェンジですね」

 お式の進行を気にする彼に落ち着き払った態度で答えながら、私は密かに自分の胸の動悸を宥める。
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