目は口ほどにものをいう
司side

帰りの車のなかで、彼女は眠ってしまった。すやすやと安心しきった顔で寝息をたてている……

仮にも付き合っている男の車で寝てしまうなんて、無防備にも程がある。
「これくらいは許せ。」
寝てる彼女の手をとってそっとキスを落とす。

今日のデート。
ほんとはもっと、デートらしい場所にしようかとも考えた。
遊園地、映画、水族館。
でも、彼女にとってただでさえ一緒にいたくない相手と並んで待つのは嫌だろうと考えてやめた。
どこにしようかと考えていて、ふと、彼女が以前『うさぎがかわいい』と言っていたのを思い出した。
だから、あそこを選んだのだけれど……

着いた時、彼女が戸惑った顔をしたから失敗したかと思った。

でも、今日1日、彼女は楽しそうだった。少なくとも、俺にはそう見えた。

うさぎを撫でながら、優しく微笑む顔。
エサあげてたら山羊に囲まれてあたふたしてる姿。
ソフトクリームを食べて、嬉しそうに微笑む顔。
「課長、見てください!!」そういって俺に向ける笑顔は本当にかわいくて……

彼女も俺を思ってくれているんじゃないかと、勘違いしそうになる。
彼女の笑顔を見るたびにあふれそうになる気持ちを、何度も何度も閉じ込めた。

彼女は俺の気持ちに気づいていない。
今伝えても、戸惑わせ、怖がらせるだけだろう……

長期戦は覚悟の上だ。
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