キスより先に
私の返事を聞いた桐島社長が、心得たとばかりにひとつうなずく。



「うん。なら、手っ取り早い方法がある」

「はい? なにが……」

「きみも、ここに住めばいい」



一瞬、言われたことの意味がわからなくて固まってしまった。

少し遅れて社長の発言を処理した私の脳内が、クエスチョンマークで埋め尽くされる。



「な……なにを、言って……」

「別に内縁関係に留めるつもりじゃない。結婚しよう、真崎」



今度こそ言葉を失った。ぽかんと間抜けに口を半開きにした私を見下ろして、社長が可笑しそうに笑っている。



「きみのそういう顔は、レアだな。至近距離で見られてうれしいよ」

「ちょ……ちょっと、待ってください……」



処理が追いつかなくて、思わず左手をひたいにあてながら、もう片方の手のひらを社長に向けて立てた。

え? 今、桐島社長はなんて……え? 『結婚しよう』って、言った?



「返事、まだか? おあずけくらうのは好きじゃない」

「ぎゃっ!! な、なにするんですか……!!?」



必死で頭を働かせようとしているのに、向けた手を取られて指先にキスを落とされ、一気にまた意識を持っていかれてしまう。

あわあわと真っ赤になった私を見つめて、社長がにやりと笑った。



「へぇ、そうか。思っていた以上に、ストレートな触れ合いには弱いんだな」

「しゃっ、社長あの、ご自分が何をおっしゃっているのかおわかりですか……?!」

「もちろんおわかりだ。俺はきみに、プロポーズをしている」



プロポーズ!! プロポーズって!!!

いや、そもそも私たちは……!!



「付き合ってすら、いないですけど……??!」

「今さら“お付き合い”しなきゃお互いのことわからない関係か? 俺たち」



こともなげに言い放たれて目眩がする。そういう問題じゃない。

じゃあどういう問題?って、聞かれれば……。
< 5 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop