颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
§年下御曹司は私を連れ去る模様です
やっと開いたエレベーターには既に若い男性がいた。
その先客は目を細め、冷めた視線で私を見下ろしている。
「ねえ、キミ。このエレベーター、役員専用なんだけど?」
年の頃は20代半ば、背は高め、肌触りの良さそうな濃紺のスリーピース。黒髪のマッシュのツーブロック、肌は陶器のように白く滑らかで。
……モデルみたいだ。
「キミ役員なの?」
「ち、違います!」
役員専用だなんて知らなかった。
ギロリとにらまれて萎縮する。
そそくさと降りようとすると突然、二の腕をつかまれた。
「なにするんで……」
顎をくいとあげ、降りるな、と言わんはかりだ。軽くパニックを起こしているうちに扉は閉じ、エレベーターはゆっくりと加速度をつけた。
「は、離していただけませんか」
「ちょっとつきあって」
「どうして」
「一般社員なのに役員専用エレベーターを使用した罰」
「本社ってそんな罰則あるんですか?」
「知らないの?」
さっきまで怖い顔をしていた彼は急ににっこりと微笑んだ。
ポーンと音が鳴って扉が開く。
「じゃ、行こっか!」
「あのっ!」
「はい、ね?」
ぎゅっと握られて二の腕が痛い。
私は先月まで地方支社にいた。今日付けでこの憧れの本社勤務になり、階下の総務部から配属先にもどるところだった。それを、なに?
腕を引かれて降りた階は役員専用の最上階。ふかふかの絨毯にパンプスが埋もれ、時折こけそうになる。
私をどこに連れて行くの?
っていうか、このひと、誰なの?
役員専用エレベーターに乗っていたということは、役員?
ヘタしたら私よりも若いかもしれないのに。
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