颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)

「颯悟さんにふられたら考えます」


課長の肩に頭を乗せる。鼻先から煙草の残り香と整髪料と汗の匂いがした。桐生颯悟とは正反対の匂いだ。大人の渋くて苦味のある匂い。

課長が足を止めた。信号待ちかと思ったら、前方5メートルのところにアレが立っていた。杢グレーのパーカーにオレンジのTシャツ、細身のジーンズ。

桐生颯悟。

なんで来るの? なんでいるの?

あきれ顔で私を見つめたあと、彼は課長に顔を向けてにこにこと笑った。相変わらずの極端対応だ。


「おお、これはこれは颯悟副社長。はじめまして、デザイン課の佐藤です」
「こんばんは。あなたが佐藤課長ですね。噂はかねがね。うちの彼女が手間をかけさせたみたいで」
「いえ、大したことじゃありませんから。副社長と同棲されているそうですね。部屋まで送り届けます」
「いえ、ここで僕がもらいます。ほら、みのり。降りて」


ずるずると課長の背中から降ろされ、桐生颯悟に抱きかかえられる。私のカバンを課長が差し出した。

瞬間、桐生颯悟の動きがピタリと止まった。まるで時間が止まったみたいに、息をしてないみたいに。彼の目は何かに釘付けになっていた。
< 93 / 328 >

この作品をシェア

pagetop