ガラスの境界、丘の向こう

 バス停まで出迎えてくれた校長のエレノア・オースティン先生は、六十歳ぐらいの明るい有能そうな女性だった。

 パパは得意のクィーンズイングリッシュを響かせながら会話を盛り上げた。

「ずいぶん立派な建物とガーデンですね。歴史的価値が大いにありそうだな」

 オースティン校長先生は誇らしげに言った。
「そうですわね。ガーデンはヨークシャー州でも有数の風景式庭園でして、大きな湖や広い森もあって手入れも行き届いております。校舎はジョージ王朝時代の貴族のお屋敷を学校用へと改築した建物で、エリザベス女王の叔母さんがよくいらっしゃっていたぐらい格式があったんですの。それに三〇〇年経った今でも外観はほとんど変わっていないんですのよ」

 ウィストウハウスの建物は三階建だった。
 壁面はクリーム色がかったライムストーンの石造りでできており、石は年代物のため少し黒ずんでいた。
 ポーチにはギリシャ神殿ふうの円柱が数本立ち、建物はその入口から左右対称につくられていた。
 そしてファサードには縦長の大きな白い窓がいくつもある。建物自体は武骨で厳かだったが、白い格子窓はエレガントな感じを出していた。

 眞奈はどうしても窓が気になりじっと見つめた。

「窓が素敵ですね」、眞奈は慣れない英語でおずおずと言った。

 校長先生はにっこりした。
「そうね、マナ。この窓は建設当時ウィストウ村の大変な自慢だったのよ。立派なお館様を持つ村ってことでね。まだガラスがめずらしくて高価な時代、窓がたくさんあるお屋敷はお金持ちの印だったの」

 ポーチの円柱の間を抜けて、眞奈たちは厳めしい大きな両開きの玄関にたどり着いた。

 オースティン校長先生は真鍮(しんちゅう)のドアノブに手をかけながら、「でもね、マナ……」と悲しそうに言った。
「外観とは違って、建物内部は当時とはすっかり変わってしまっているのよ」

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