浮気の定理-Answer-
「あの……」


自分ではどんな表情をしていたのかわからなかったけれど、彼女の不安げな顔と声で、険しいものだったのだとわかる。


慌てていつもの副店長としての表情に戻すと、彼女の問いかけに優しく応えた。


「はい、なんですか?」


すると安心したように頬を緩めた彼女が、突然僕に近づいてきた。


一瞬、仰け反りそうになった僕の耳元で、背伸びした清水さんが小さな声を出す。


「あの……こないだの……

気にしないでくださいね?

私は、大丈夫ですから」


そう言い終わるやいなや、すぐに僕から体を離し、それじゃ……と、いつものようにペコリと頭を下げて、レジの方へと歩いていく。


僕はそれを呆然としながら、見送った。


彼女はやはり覚えてたのだ。


覚えててわざと普通にしてくれていたんだと、ようやく気づいた。


それは決して、自分のためじゃなく、僕のために……


完全に立場は逆転してた。


本来ならパートさんを気遣わなきゃならない立場の僕が、逆にパートさんである清水さんに気遣われてる。

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