浮気の定理-Answer-
飯島の場合④


「おはようございます」


いつものようにそう挨拶されて、僕はとっさに振り返った。


清水さんの声だとすぐにわかったからだ。


結局、僕はあれから熱がなかなか下がらずに三日ほど休みをもらっていた。


だから今日は久しぶりの出勤で、清水さんに会うのもあの日から初めてになる。


「おはよう……ございます」


あまりにも普通すぎて、あれはやっぱり夢だったんじゃないかと、探るようにまじまじと彼女の顔を見た。


「もう、大丈夫なんですか?」


彼女はそれでも動じることなく、僕の体調を心配そうに聞いてくる。


「あ……はい、おかげさまで……

ご心配おかけしました」


動揺してるのは僕の方だ。


いつになく敬語になってしまっているのがその証拠だろう。


体調のことを聞かれれば、どうしたってあの日のことが頭に浮かぶ。


彼女だって忘れたはずもないのに、なぜこんなに普通にしていられるんだろう?


それが、なんだか悔しかった。


意識してるのは僕だけだと言われてるような気がしたから……
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