浮気の定理-Answer-




「どうした?なんか悩み事?」




いつもとは違う紗英の様子に、俺はそう聞いてみた。


彼女は泣きそうな顔で黙りこくったまま、俺の目をジッと見つめてくる。



――やっぱりなにかあったのか?



まさか辞めるなんて言われたら正直困る。


俺は紗英が何を言い出すのか、固唾を飲んで見守った。




「わたし……」




そう言ったまま、今度は俺から目をそらし、俯いてしまう。


俺は持っていたボールペンから手を離し立ち上がると、事務所のドアの前に立ちすくんでいる紗英のそばに歩み寄った。


俯く彼女の肩に手を置いて、なにがあった?と聞いてみる。


肩越しに彼女が震えてるのがわかった。


泣いているのかもしれない。


妻の桃子とは違う目線。


ずいぶんと下の方に頭がある。


30㎝はありそうな身長差は、余計に彼女を頼り無げに見せた。




「店長……わたし……」




声を震わせながら、彼女が俺のみぞおち辺りに顔を埋める。


俺は彼女の頭をそっと撫でながら、彼女の言葉を待った。


大事なスタッフであり、妹みたいに可愛がっていた彼女の悩みを聞いてやるくらいのつもりで……

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