浮気の定理-Answer-
けれどそれよりなにより、店にとって紗英を失うことは大きな損失だった。


彼女が辞めれば、また一人誰かを採用しなければならない。


それほど大きい店じゃないけれど、もう一人紗英のあとに入ったアルバイトの女の子は、一生懸命やってくれてはいるものの、接客やシフト面でまだまだ頼りなかった。


そこに新人を採用すれば、サービスの質が落ちるのは明確で、ただでさえ近くに出来た店に客を取られている現状がさらに悪化する可能性は大だった。


紗英のことは嫌いじゃない。それどころか好きな部類に入るだろう。


店のスタッフとして信頼もしているし、なにより自分を慕って頼りにしてくれてる。


それは俺の自尊心をくすぐるもので、桃子といても得られないものだった。


男として、人間として、必要とされる喜びは、紗英の方にある。


桃子の前ではいつも受け身で、高値の花を手に入れたという満足感だけが前を歩いていたように思う。


そしていつだって卑屈な気持ちになるのだ。


結婚した当初から、俺を頼るどころか、上に立ち主導権を握る桃子に対して。

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