浮気の定理-Answer-
「うるせぇ!俺は頼まれたからやっただけなんだ!俺は悪くねぇ!」



そう叫びながらくだを巻く客に、俺は仕方なくガタイのいいホールの店員2人を呼び寄せ任せることにした。


迷惑な客はつまみ出すしかない。


引きずられるように店の外に連れ出されていくその男の顔を、前に見たような気がした。


いつだったか、他の男と怪しげな会話をしていたあの男。


自分の妻を金で陥れようとしていた最悪な夫と、それを受け入れたその妻の同僚らしき男の最低な2人組を思い出した。


あの様子だと、計画は失敗に終わったのかもしれない。


もしくは実行に移したものの、自分の思うようには事が進まなかったか……


どちらにしても、見知らぬ彼女が無事だといいと願う。


そして、あの男達には重い天罰が下ればいい。


気持ちが滅入るのを感じながら、グラスに水を注いで一気に飲み干した。


いろんな客がいるけれど、あそこまで最低なのは初めてだった。


やはり警察に通報すればよかったかもしれないと、今更ながらに後悔する。


それでも今の法律ではまだ起きてもいないことを、事件として扱ってはもらえないだろう。


しかも酒の席での戯言を、信じろという方が無理なのだ。


自分の無力さにうんざりしながら、もう二度とあの顔は見たくないなと静かに息を吐き出した。


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