浮気の定理-Answer-
「あっ……お、おかえり!早かったんだね?やだもぉ、連絡してよぉ」



慌てたように部屋着を身につける彼女の顔はいつもより女の顔をしていて



「すぐ、ご飯の支度するからちょっと待っててね?」



そう言って俺の横を通り過ぎる彼女からは、いつもとは違う、知らない匂いがした。


ショックだったのは、自分がそれほどショックではなかった事だ。


いや、ショックには違いないのだけれど、どこかでそういうこともあると思ってしまっている。


それはきっと、自分も家庭のある人を好きになってしまった事があるからなのだと、妙に冷静に分析していた。


結婚して三年。俺たちに子供はいない。


例えばあの時の清水さんのように、子供がいれば踏みとどまる可能性も、俺達にはないように思えた。


俺に愛想をつかして浮気をしているなら、そっちが本気ってこともある。


俺と別れてそいつと一緒になったって、特に困ることなど何もないのだ。


そこまで考えてからハッとする。


なんで別れる前提で話を進めようとしているのか。


引き止めたい気持ちとか、自分の何がいけなかったのかとか、さみしい思いをさせていたんだろうかとか。


考えることはいくらだってあるはずなのに、どこか冷静に自分を客観視している自分に気づいて愕然とした。
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