浮気の定理-Answer-
飯島のその後
「ただいまぁ」


いつもはするはずのこれから帰るという連絡を、この日はなぜかしなかった。


別にそれが必ずしなければならないものという認識はなかったし、久しぶりに早く帰れる喜びに浮かれていたのかもしれない。


玄関のドアを開けた途端、いつもとは違う空気を感じて首を傾げる。


ふと足元を見ると、女物のパンプスが無造作に転がっていた。


--あれ?どっか出かけてたのかな?


朝は何も言ってはいなかった。


それでも、自分のいない時間に外出するくらい当たり前のことだろうし、特に気にもしていなかった。


玄関を上がってすぐの左側にある寝室のドアが少しだけ開いているのが見えて、そっと中を覗いてみる。


するとそこには俺の知らない彼女が立っていた。


いつもとは違う女性らしいワンピースを脱ぎ捨て、レースをあしらった見たことのない下着姿があらわになる。



「……あゆみ?」



思わずそう口にしてしまうと、心底驚いたような顔で彼女が振り向いた。


その顔を見た時、なぜだか分からないけど分かってしまったんだ。


彼女が浮気してるってことを。

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