浮気の定理-Answer-
その日、俺はあゆみを迎えにいくつもりだった。

けれどすぐにそれは必要なくなった。



「……あゆみ」



店を出てすぐ、入口脇にあゆみが立っていたから。




「菊池さんから連絡もらって……今来てるわよって……それで……迎えにいくって言っ……」




人目もはばからず、俺はあゆみを抱きしめていた。


こんな風にいつも俺のことを考えて自分から歩み寄ってくれる彼女の優しさに、俺はどれだけ甘えていたんだろう?



「ごめん、あゆみ……ほんとにごめん」



そう繰り返しながら、久しぶりの彼女の匂いを思いきり吸い込んだ。

いなくなって初めてわかった大切さ。

当たり前のことが当たり前じゃなくならないと気づかないなんて……



「どうしてっ……あなたが謝るの?悪いのは私なのにっ……」



泣きじゃくりながらそう訴えるあゆみが愛しかった。


浮気のことなんてもうどうだって良かった。


あゆみが今ここにいる。


それは俺を選んで戻ってきてくれたってことだ。

そして、彼女をそうさせたのは紛れもなく自分なわけで、俺はもう帰ってきてくれただけで良かった。


責めるつもりも問い詰めるつもりもない。


むしろ、今まで以上にあゆみを大切にしたい。



もしかしたら、清水さんの旦那さんもこんな気持ちだったのかもしれないなと何かが腑に落ちたような気がした。


俺たちの時間はここからまた新たに始まる。


あゆみの体を強く抱きしめながら、今度こそちゃんと二人で一緒に歩んでいこうと心に誓った。



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