浮気の定理-Answer-
「わかってる、わかってるから……すぐに帰るよ……あぁ、うん……それもなんとかする……大丈夫だから、落ち着けって!あぁ、じゃあな?」




ようやく通話を終えて携帯をしまうと、男は大きくため息をつく。


それからすぐ帰るのかとおもいきや「同じものを……」とまたさっきと同じ酒を注文した。


きっと帰りたくないんだろう。


さっきの電話から漏れ聞こえてきた女性特有の甲高い声。


宥めるような男の口ぶりからもかなり興奮しているように聞こえた。


結局、一人の女性を幸せにできない時点で、他の誰かを幸せにすることなど出来ないのだ。


ましてや、慰謝料を払いたくないがために元妻を陥れるような男が幸せになろうなんて都合が良すぎる。


しばらくチビチビと飲んでいた男は、ようやくなにかを諦めたように重い腰を上げた。


同時にまた携帯の振動音が響き渡る。


もう帰るからなのかその着信に出ることはなく、男は金を払って出ていった。


自分のしたことは自分に返ってくる。


以前、他の客が言っていたことを思い出した。


きっと神様はちゃんと見ているのだ。


塩でも撒きたい気分になりながら、営業スマイルを崩さないよう俺は頭を必死に切り替えた。




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