浮気の定理-Answer-
涼子が出ていってしばらくして、俺がなかなか離婚に応じずに足掻いている頃、母は突然やってきた。



電話では埒が明かないと思ったんだろう。



そりゃそうだ。母から涼子を解放してあげて?と言われたあと、一切出ることはなかったんだから。



繋がらない電話に業を煮やして、母はわざわざ実家から東京に出てきたのだ。


しかも大量の荷物を持って。




「今日からお母さん、ここに住むから」



はあ?なに言ってんだ!そんなの許さない。お前なんか母親じゃない!家に入れるのを許可するわけには行かない!


とかなんとか、ありとあらゆる罵倒をしたような気がする。


以前なら幼い頃の負い目なのかいつも遠慮がちだった母は、なぜかそんなことはおかまいなしに俺を制してずんずん勝手に中に入り、ドカッとリビングのソファに座った。




「もう、決めたの。向こうの家も解約してきたから、お母さんもう住むとこないんよ。だから、よろしくね?勇」



にっこり笑って悪びれもせずそう言うと、「さてとっ」とまた忙しなく立ち上がり、今度は自分の荷物を持って納戸になっている四畳半の部屋に勝手に運んでいく。




「おい!俺は一緒に住むなんて許してないぞ!お前なんか母親らしいこと今までしたこともないくせに、今さらなんなんだよ!」




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