浮気の定理-Answer-
「だから清水さんのは誉め言葉として受け取っておきますね?

うらやましいとか思ってもらえるなんて光栄だし」


イタズラっぽい笑みを浮かべてそう言えば、彼女はホッとしたように息をついた。


それからハッと思い出したように、仕事に戻ります!と言ってDVDの箱を手にする。


そんな彼女を目で追いながら、僕はいつも新しいパートさんには必ず伝える言葉を投げかけた。


「何かわからないことや困ったことがあったら、いつでも相談してくださいね?
店長よりは敷居が高くないと思うので」


手にしたハンディモップを握り締めてこちらを向いた彼女は、少しはにかみながら、ありがとうございますと頭を下げた。


そのあとすぐに仕事を再開した彼女を横目に、ゆっくりと事務所へと向かう。


結婚して初めて働いたらしいことは、履歴書を見て知っていた。


だからなんだろうか?


他のパートさんよりも、一生懸命な印象を受ける。


でもそれだけに危うい気もした。


――しばらくは目をかけてあげた方がいいかもしれないな……


もう一度彼女を振り返りながら、僕はなんとなくそう思った。

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