優しい雨 ~一年後の再会~
「父が亡くなって、母と祖母が父の遺産で話し合ってる。私の待遇のことも……」
 考えたら現実になりそうで知らない振りをしていた。
 もともと体の弱かった父に代わり、母の方が仕事に精を出し独立して会社を興した。
 必然的に父と時間を過ごすことの多かった柚莉花。
 今まで当たり前のように側にいた存在がいなくなる……想像していたよりも心に暗い不安の影が落ちた。
 仕事に生きてきた母にとって、私は邪魔な存在ではないのか?
かつて家族と過ごしてきたこの場所で一人、楽しい思い出は現実の辛さを確認するだけで、未来の不安を拡大させていった。
「……私って、必要のない人間かなぁ……」
「ナニ言ってんの?」
 呟いて瞳を伏せ、再び口にした言葉に智博のあきれた声が上から降ってきた。
「柚莉花がいなかったら、俺は風邪ひいて死んでたかもしんないんだよ?」
 いつの間にか向かいのソファから目前にいた智博を見上げて、視線が外せなくなった。
 まっすぐな瞳に捕われたように。
 彼の手が頬に触れても。
 肌に触れる彼の指が、優しく心地よかった。
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