優しい雨 ~一年後の再会~
 明け方まで振っていた雨も止み、鳥のさえずる声で目が覚めた。
 静かな部屋はいつもと変わりないのに少し違って見えた。
 物音とおいしそうな匂いが漂ってくる。
 柚莉花は簡単に身支度を整えリビングの扉に手をかけた時、中から話し声が聞こえた。
「……もしもし…アオイ? 俺。今日、帰るから」
 親密そうな飾らない口調。
 その言葉から携帯電話で誰かと話をしているのだと判った。
『……アオイって…誰……?』
 連絡を入れる人物が、彼には存在するのだと思うと何だか淋しい思いに捕らわれた。
 いつの間にか側にいて欲しいと願っていた自分がいることに気付いたが、その想いは心の奥底に深く沈めこんだ。

「連絡先、教えてよ」
 宿のお礼とばかり智博が作った朝食を食べ終え、別荘を出るときに彼が口にした言葉。
「今度どこかで逢えたら、ね」
 ちょっと強がりな笑顔で応え返した。
 期待したくなかった。
「よーし、絶対、見つけてやるからな」
 そう宣言した彼を見送ったのが最後のはず、だった。
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