素直になれない


「今日からうちで働いてもらうことになった、外科医の日向(ひゅうが)さんです」


朝礼で院長から紹介されたのは、白衣に身を包んだ背の高い男性。


黒縁眼鏡の奥、切れ長の目が集まった職員達をゆっくりと見回した。


月初めの朝礼は従業員100人近くの人間が集まっていて、その全ての視線を受けながらも涼しい表情で口元に笑みを浮かべたその人に緊張の色は微塵も見えない。


咄嗟に顔を伏せ、前の人の背中に隠れた私の事など気づくはずがなかった。


……なんで?


「今日からお世話になります日向 和(やまと)です。皆さんよろしくお願いします」


穏やかな口調。


よく通る低めの声は耳に心地よく残る……のだろう。私以外の人の耳には。


……どうして、あの人がここにいるのよ。


簡単な挨拶を終えたその人は、丁寧なお辞儀をしてから最初に掛けていた椅子へと戻った。




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