素直になれない
「……ってかさぁ!」


ビール3杯目で酩酊状態に陥っていた。


「考えてみれば付き合おうなんて言われたことなかったしー、手を繋いだことも、キスしたこともなかったんだよね。それなのに付き合ってたとかってーあり得ないよねー」


賑やかな店内で、私1人大きな声を上げたって周りにはなんの支障もなかった。


酔った頭でそんな風に思って、気が緩んで思うままに吐き出していた。


目の前の真柴は呆れた顔で、それでも黙って聞いていてくれたから尚更に。


グラグラと脳が揺さ振られてひどく気分が悪かった。


さらに追い討ちをかけるように、記憶の引き出しが激しく音をたてて、開けろ開けろと急き立てる。


見たくない、見たくない、何度も叫ぶのにそれは容赦なく襲いかかってくる。


思い出せ、思いだせと。


そして燻るように未だ残るあの日に捨てたはずの淡い恋の熱にうかされる。




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