素直になれない
「はー、やっと落ち着いた」


昼前になってようやく外来診療の流れが緩やかになってきた。


今のうちに物品の補充をしておこうと在庫をチェックしていると、顔馴染みの業者に声をかけられた。


「砂川さん」


「あー、茂木さんお疲れ様です」


いつも通りの挨拶を交わし、不足分の品の補充を依頼した。


「じゃあ、お願いします」


茂木さんに声をかけて診察室に戻ろうとした私は背後から引き止められた。


「茂木さん?どうしました?」


「いや、あの……真柴さんから聞いたんですけど、今度合コン参加されるんですよね?」


突然何を言われたのかピンとこなくて返事が遅れてしまった。


「は、いえ、あの……はい」


合コン位みんな気軽に参加しているっていうのになんだか無性に恥ずかしかった。


「……!僕も是非……いや、その迷惑でなければ」


見る間に真っ赤になってしまった茂木さんにつられて、自分まで顔が火照りだした。


「え、と、真柴が仕切ってくれるので……あの、伝えておきますね……」


「はい!」


気持ちのいいくらい朗らかで元気な声が返ってきた。


無邪気な子供みたいな返事。


でも、このまま2人きりは凄く気不味い。


早々にもう一度挨拶を交わして茂木さんに背を向けた。


今度は呼び止める声がかからないことに心底ホッとした。



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